優勝者は3万人を動員するドイツの野外フェス“タウバタール・フェスティバル”で演奏できるという世界最大級のライブコンテスト、“エマージェンザ・ミュージック・フェスティバル”。その2018年ジャパンファイナルを制したのが、関西を中心に活動するthanだ。ソロも含めて年間180本以上にも及ぶライブに裏付けられた、圧巻のサウンドとパフォーマンスで頂点に駆け上った。比類なき個性を持ったアーティストが居並ぶ歴代エマージェンザ・ジャパンの優勝者に、新たに名を刻んだ彼らに訊くスペシャル・インタビュー。
●まずは“エマージェンザジャパン2018 ジャパンファイナル”の優勝、おめでとうございます!
一同:ありがとうございます!
●そもそもthanがエマージェンザに挑戦しようと思ったキッカケは、何だったんでしょうか?
キタ:コンテストに出たいという気持ちは元々、あまりなかったんですよ。3年前に友だちのバンドが大阪ファイナルの決勝まで進んだこともあったんですけど、当時も外から見ている感じで。その後で去年、(同じ大阪の)JUNIOR BREATHがジャパンファイナルで準優勝したのも見て、“ライブが面白ければ評価されるようなコンテストであれば、自分たちもひょっとしたら勝ち進めるんじゃないか?”と思って参加してみました。
●面白いライブをやれば評価されるという部分に惹かれたんですね。
キタ:普段のライブで明確な結果が見えることって、あまりないじゃないですか。お客さんの反応が良かったり、物販でCDが売れたりすること以外に判断材料がなくて。そういう中でライブが面白ければ何らかの結果に跳ね返ってくるというところで、エマージェンザは面白そうだなと思ったんです。
●初めての挑戦ということで、普段のライブとは意識も違ったんでしょうか?
キタ:予選が始まる前までは、“いつもどおりにやろう”というくらいにしか考えていなくて。でも予選で僕たちが思っていなかったような反応がたくさん返ってきたことで、“これは勝たねばイカン”という意識に変わりましたね。
●予選を経たことで、勝つことへの意欲が生まれたと。
キタ:“ライブが面白ければ勝てる”と思っていた反面、“結局はお客さんをたくさん集めた人が勝つんじゃないのか?”という気持ちもあったんです。でも予選では僕らを応援しに来てくれていた人たち以外も、めちゃくちゃ反応してくれて。今まで味わったことのない空気がライブ中に生まれたことで、意識がすごく変わった気がします。
赤子:コンテストだからというのもあるかもしれないんですけど、客席の後ろのほうまでものすごい反応があって。“自分たちのライブに対して、これだけたくさんの人が反応してくれるんや…!”という驚きもあったし、改めて“ライブってすごいな”と感じました。
●元から自分たちを応援してくれていた人以外も、巻き込めている感覚があった?
キタ:元々は僕たちを知らない人もだんだん、こっちにグッと入ってくる感じがしたというか。その空気がはっきりわかる感覚があって、“こんなことになるんだ!?”っていう驚きがメンバー全員にありました。
●巻き込むための工夫を何か意識的にやったわけではない?
キタ:特に何かやったわけではないですね。だんだん時間が進むにつれて、そういう空気ができていって。あとで人に言われて気付いたんですけど、MCの中で僕はやたらと“みんなのことが大好きだ”と言っていたらしくて(笑)。それも結果的につながったのかもしれないですね。でも予選の時は本当に“いつもどおりのライブをする”というか、“より丁寧にやる”という意識しかなかったです。
●準決勝や決勝に勝ち進んでいくにつれて、さらに気持ちも変化していったんでしょうか?
キタ:変わっていきました。予選で感じていたものが何なのか自分でも明確にはわかっていなくて、“ただ何かが違った”とだけ思っていたんです。それを準決勝の時にちゃんと確かめようとは思っていましたね。あと、その頃には“どうしても勝たなきゃいけない”という気持ちになっていたので、もう少し応援してくれる人を増やした上で、他にいる人たちをどう巻き込むかということを考えるようになって。
●勝つための方法を考えるようになった。
キタ:その時に大きく変わったのが、メンバーが集客をし始めたというところなんです。そこまでも努力していなかったわけではないんですけど、明らかにメンバーの“お客さんを集めよう”という意欲が増したというか。予選と準決勝の間で、すごく色んなことが変わった気がします。
●そこが1つのターニングポイントになったんですね。
Taroo:特に準決勝以降はthanの意識が変わったからか、勝ち進んだからなのかわからないんですが、単純に“色んな人に観て欲しいバンドやな”と思うようになりました。普段はこういう音楽を聴かない人にも観て欲しいなと考えるようになって。そういう心境の変化はありましたね。
N:応援してくれる人が増えるにつれて、舞台に立つ責任感みたいなものがどんどん大きくなってきているのはメンバー全員が感じていたと思うんですよ。そういう中で“自分たちはどこまで行けるのか?”というところで、気持ちもどんどん高まっていって。その結果として、ドイツ大会まで勝ち進めたんじゃないかなと僕は感じています。
●ちなみにホンジョウさんは今回のエマージェンザ自体には参加していなかったわけですが、外から見ていても変化を感じましたか?
ホンジョウ:それまで味わったことのない感覚を自分も感じていましたね。現メンバーになってからそんなに日は経っていなかったんですけど、そこで自信がついてバンドが1つになっていくのをすごく感じました。その自信が予選から準決勝と勝ち進んでいく中で、どんどん大きくなっているのも感じていましたね。
●大阪ファイナルでは、自分たちが優勝できるという自信もあった?
キタ:予選・準決勝を勝ち抜いたことで自信が増したところもあったんですけど、それ以上に“優勝しなきゃいけない”という想いが強かったですね。僕たちは音楽的にも表現的にもちょっとマイノリティなことをやっているし、良くも悪くもアンダーグラウンドだと思っていたんです。“それがこんな形で評価をされるとは…”という驚きはあって。でも決勝に行ったら当然、他にこんなバンドはいないし、そこで優勝しないと僕らの音楽を好きでいてくれる人たちを正当化できないと思ったんですよね。
●そこも責任感があったというか。
キタ:音楽が好きでライブハウスに足を運んでくれているような人たちを僕たちは相手にしているので、その人たちのやっていることやライブハウスで行われていることが肯定されるようにしないといけないなと思ったんです。そこに対して振り向いてくれる人たちは自分たちが思っている以上に多いというのは予選・準決勝で感じられたから、“全然やれるな”という気持ちもあって。だから大阪ファイナルは勝てるし、勝たなきゃいけないという気持ちではいました。
●結果的に優勝して東京ファイナルに進んだわけですが、そこでもお客さんを巻き込めている感覚はありましたか?
キタ:巻き込めていたと思います。演奏を始めた時点では客席前方は人がまばらだったんですけど、演奏が1曲1曲進むごとにどんどん前に寄ってきてくれて。気付いたら、僕らの目の前がほとんど外国人だったっていう(笑)。
●その時点で国籍を超えて届いていたと。
キタ:そうなると後ろのほうでも良い反応が見えるようになって。最初は完全なアウェーだと思っていたんですけど、最終的には東京もやりやすかったですね。
Taroo:大きな会場でしたけど、観ている人たちを自分たちの世界に引っ張ってくることができたという実感はありました。
●優勝が決まった時はどんな気持ちでした?
N:優勝と言われた時は、頭が真っ白になりました。“えっ、勝ったんや? ホンマに?”という感じでしたね。
赤子:私は、ビックリはしなかったです。“また次に進める”という気持ちはあって。ドイツ大会が近付いてくるにつれて、ジワジワと自分の中で燃え上がる想いはありました。
Taroo:東京ファイナルまで勝ち進んだことで色んな人の想いを背負っているなという意識が強かったので、優勝で飾れたのは本当に嬉しかったですね。あと、海外でやりたいという気持ちがあったので、それを叶えられたのも良かったです。
ホンジョウ:キタの想いがすごく強くて。予選の時から“絶対にドイツに行く“と言っていたので、それを実現させたということで“さすがやな”と思いました。
●キタさん自身も相当嬉しかったのでは?
キタ:喜びというよりも、1回1回勝ち上がる度にホッとしていましたね。自分たちのやっている音楽について、人から認められるに足るものをやっているという自負は全員が持っていると思うんです。それを明確な形で証明できたというか。数学の証明問題を解き終わる度に“ほら、やっぱり!”となるような感覚が、予選や準決勝を勝ち抜くごとにあって。だから東京ファイナルの決勝で勝った時は、“言っていたとおりになって良かった〜”という感じで本当にホッとしました。
●その後のドイツ大会も“勝ってやる”という気持ちは強かった?
キタ:めちゃくちゃ勝つ気でいました。
●結果として7位だったことには悔しさもある?
キタ:ありますね。やっぱり優勝するつもりで行ったから。エマージェンザが僕たちを選んでくれたからには、日本代表として戦うことが使命として与えられているわけで。そこで負けてしまったことは悔しいです。
Taroo:僕の中では、もう少し自分たちのステージを作り込めたような気がしていて。だから、“もう1回やりたいな”という想いがあるんです。thanの良さは伝えられたと思うんですけど、僕の中で“こんなもんじゃない。もっと感動させられるはず”という想いはありますね。
●Twitterでキタさんがドイツ大会を経て、“何かが明らかに変わった”ということをツイートされていましたが。
キタ:帰国した直後から、もう何本かライブをやっていて。ドイツに行く前と帰ってきてからとでは、明らかに雰囲気が違うんです。どこでどういう編成でやっても、ざっくり言うと“良い感じ”で。なぜそうなっているのかはまだよくわかっていないんですけど、明らかに何かが変わった感じはしていますね。
●今、バンドが良い状態になっていることも、エマージェンザに出たことが影響しているわけですよね?
キタ:影響していると思います。バンドとして確実に強くなっているという実感はあるから。もしその経験がなかったとしたら、逆に今どうなっていたのか想像できないですね。
●得るものは確実にあったと。
赤子:しんどいこともあったんですけど、楽しかったです。今振り返ってみたら、自分がバンドに対して真剣に向き合うキッカケにもなったなと思っていて。今までが真剣じゃなかったわけではないんですけど、“もっと本気でやらないと食われる”という感覚にはなりましたね。
Taroo:優勝して“タウバタール・フェスティバル”に出させて頂いたんですけど、日本では味わえないような素晴らしい雰囲気のフェスで。あそこに出演できるというのは、信じられないくらいのメリットがあると思いますね。
●では最後に、これから挑戦しようと思っている人たちに向けてメッセージを頂けますか?
キタ:決して甘い大会ではないし、色んな意味で現実を見ることにはなるんですけど、ぜひ挑戦して欲しいですね。大阪ファイナルで勝ったとはいえ、自分たちが大阪で一番のバンドだとは決して思っていないんですよ。僕たちよりも面白いバンドは山ほどいるだろうし、そういう人たちがもっと出てくると大会自体ももっと面白くて、やり甲斐のあるものになるはずだから。そうなってきた時に、僕らもまた挑戦したいなと思っています。